2011年10月16日から、このブログを書き始めました。 サマゴーンは、ラムカムヘン通りの北、ソイ110に位置する、 バンコクでも歴史が長い有名大住宅街(と言われているよう)です。 戸数、5000の、キング・プロジェクトで開発された、かなり大きなムー・バーンです。 ロングステイを一歩踏み込んだ生活となりましたので、 都心から離れ、しかし、まったくの田舎暮らしでもない、こういうところもいいのか、 と思って住み始めました。 さて、どんな生活になることでしょうか。

2014/03/01

「道草」  「夏目漱石」 江藤淳


一月二十日に「道草」を読みました。


「道草」は、漱石がロンドン留学を終え、

東大の教授になってから、

「吾輩は猫である」を書いて朝日に入社し、

専門作家稼業を始めるまでの自分を題材にした

作品です。


「道草」を読んでから、もう少し漱石の全体像を

振り返りたくなり、

江藤淳の代表作である「夏目漱石」を読むことにしました。


文庫本に2冊あって、講談社版「夏目漱石」は

第一部 漱石の位置について

第二部 晩年の漱石

が収められています。

新潮社版は、これに加えて、

第三部 その他の漱石に関するエッセイ

(漱石の恋、含む)

を含み、「決定版 夏目漱石」と銘打っています。


20140301soseki1
「道草」10バーツ、「夏目漱石」20バーツ、
「決定版 夏目漱石」日本で購入 105円。
2冊は、バンコクの古本屋で入手したものです。


夏目漱石という作家に対して、

単なる明治の文豪、というイメージは前から

持っていなかったのですが、今回の集中的な

読書で、ますますそのイメージが彩り豊かに

なりました。


明治の文豪、といえば、僕には、

幸田露伴、森鴎外、夏目漱石、という3人の名が

まず浮かぶのですが、

幸田露伴はもはや誰も読める人なく、

森鴎外も、同様、その本を手に取る人が

もはや無くなってしまったのではないでしょうか。


最近、日本の大書店に行っていないので、

これらの作家の本が店頭に並んでいるか、

定かではないのですが、

夏目漱石は、いまだ健在なのではないかと

想像しています。


何故か。


そのヒミツが、上記の「夏目」本から、

うかがい知ることが出来ます。


漱石は、代々の、江戸の新宿方面の名主の家に

生まれたのですが、

江戸から東京に変わって、名主の地位にも変化があり、

父が老いて生まれた漱石は、父に疎まれ、

口減らしのために、すぐに里子に出されます。


出された先が、ただの雑貨小売り屋で、

夜店の売り台のそばの「ざる」のなかに、

放り込まれている漱石を見て、

姉があまりにも可哀そうに思って、

家に連れて帰る、

ということがあります。


父はこれを喜ばず、漱石は再度、養子に出されます。


今度は、名主仲間の、暮らし向きは豊かに家です。

ところが、この養子先で、その父親が不倫のあげく、

離婚する、という羽目になって、家庭崩壊、

漱石はまた夏目家に戻る、という経歴を踏みます。


この養い親の、養父も養母も、異常なくらいの

経済観念の持ち主であり、

漱石を将来、自分たちを養ってくれる子、

としてのみ、扱う、家庭風景、となります。


「お前は誰の子?」

漱石はだまって養父・養母を指さします。

「それなら、お前の本当の親は誰?」

それが彼らの望むことだと分かっていますから、

まただまって彼らを指さす・・・。


幼い子が、「お前は誰の子?」と、

ことあるごとに問われる、という状況を想定してください。


完全に、自分のアイデンティティというものが、

否定されているようなものです。

自分の存在というもの自体が、疑問視されている、

ということになります。


これが、漱石のこころの中に、

人間の存在は醜悪なるもの、

というトーンを埋め込むことになるのでしょう。


漱石には、ふたつの力があって、

精一杯に生きる、という方向、

(自分が一家を支えなければならない、という状況)

世間から、人から離れ、孤独の中に沈潜したい、

という方向、

この二つが、最後まで、葛藤して生きたようです。


漱石の思想として、有名な、「則天去私」という、

人生の真理に目覚め、達観し、悟りの境地で、

自然・天の定めのままに、己を甘受して生を全うする、

という境地は、

漱石が望んだことかもしれませんが、

漱石自身は、その境地には到底、到達できないまま、

悪戦苦闘の、道半ばにして、倒れた、

というのが、江藤淳の解釈で、

それが、漱石の直弟子、信奉者たちの描いていた漱石像と、

まったく乖離していて、画期的な論点だったようです。


漱石は、非常に真摯に生きた作家だと思いますし、

作家生活は驚くなかれたった11年に過ぎませんが、

作家の成長を示す、自分の変化を示す、

数多くの作品を輩出しました。


良く知られてはいないかもしれない分野に、

短編があります。

これらの短編の中で、

漱石は自分の「暗い」「奥底」の部分、

自分でも「闇」をまさぐりながら歩いてみる、

といった作品を残しています。


それらのテーマは、意外にも、もっとも現代的な

テーマでもあるらしい・・・。


20140301soseki2
これらは日本からもってきた105円の本。


「夢十夜」という短編はこんな話で始まります。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第一夜。

こんな夢を見た。

腕組みをしえ枕元に座っていると、仰向きに寝た女が、

静かな声でもう死にますという。

女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかなうりざね顔を

その中に横たえている。

真っ白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、

唇の色はもちろん赤い。

とうてい死にそうにはない。

しかし女は静かな声で、もう死にますとはっきり言った。

自分もたしかにこれは死ぬなと思った。

そこで、そうかね、もう死ぬのかねと上から覗きこむようにして

聞いてみた。

死にますとも、と言いながら、女はぱっちりと目を開けた。

  ・・・・・

死んだら、埋めてください。

大きな真珠貝で穴を掘って。

そうして天から落ちてくる星の破片を墓標に

置いてください。

そうして墓の傍に侍っていてください。

また逢いにきますから。

  ・・・・・

百年待っていてください。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


川上弘美さんに、女流文学賞・伊藤整賞を得た、

「溺レる」という短編小説集があります。

その中に、「百年」という作品があります。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

死んでからもうずいぶんになる。

サカキさんと情死するつもりだった。

それなのにサカキさんは死なずに残った・

私だけ死んだ。

死んでからは、迷ったり、

念がこうじて幽霊のかたちであらわれたり、

いろいろとあったが、今ではもうなんという

こともない。

ただ、サカキさんのことを、強く思うばかりである。

サカキさんはせんだって八十七歳で往生した。

せんだってと言ったが、それからもだいぶん時間は

流れたようで、今はいったいいつごろなのか。


  ・・・・

なぜ私なんかと居るの。サカキさんに聞いたことがあった。

サカキさんは少し考えてから、お前は清のような女だよ、

と答えた。

きよ?

清。知らないのか。漱石の「ぼっちゃん」に出てくる

ばあやの名前だ。

ばあや?

清は、やさしい女だよ。

  ・・・・・

清のようだね、というサカキさんの言葉をときどき

思い出す。

清は、ほんとうに墓の中で、坊ちゃんを待ったの

だろうか。

サカキさんは待っていた私のところへは来なかった。

百年過ぎたが、なにも変わらない。

死んでしまったので、もう何も、変わらない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


川上弘美さんも、漱石を読んでいるようで、

僕が、漱石のなかに現代性を見ているのも、

あながち間違いではなさそうです。


漱石については、語りたいことが沢山あるのですが、

長くなり過ぎるので、この辺で。


精神分裂者:夏目漱石、という本もあるくらい、

非常に解釈の幅の広い、奥の深い、実存的な問題を

抱え続けた作家で、今もその作品は生き続けている、

というのが僕の、漱石理解です。

それでは、また。






^O^


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このキューピーさんの絵は奥さんのゴイ作です。
退職後、ロングステイ先を求めてタイにやってきたのが2008年。あせらず、あきず、あきらめず、いつまでも成長していける心で、豊かに生きることを願っています。産業カウンセラーの資格を退職後に取得。モットーは、あ・た・ま=明るく、楽しく、前向きに。

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